本文へスキップ

2013年度 活動報告 海事輸送研究theSIS

1.2013年度の研究テーマと体制
 貿易国家である日本にとって、資源や物資の輸送は重要な問題である。あらゆる輸送手段の中で、輸送比率が最も大きく輸送能力に優れる海上輸送の研究は、世界経済の飛躍的な発展と人類を豊かにするために必要不可欠である。従来の海上輸送では、経済面からの大量輸送による船体、積み荷及び船員の安全性のみが最重要課題とされていた。しかし近年、1)船舶及び荷物の安心・安全、2)石油枯渇に起因した船舶の燃料費高騰のための輸送の効率化 の他、特に、3)船舶機関からの排ガス(CO2、NOx等)の大気放出、4)船舶バラスト排水内の有害外国産生物による貝毒や土着水生生物の生態系破壊及び化学物質や液化ガス等の危険物搭載船舶からの危険物流出拡散等の、地球環境汚染が深刻な問題となった。このまま放置すれば、限られた海と大気の地球環境は汚染が蓄積され増加の一方であり、不可逆的な損害を与えることが危惧されるため、一刻も早い対策が必要である。輸送の三原則である安心・安全、経済性に環境保全を統合した輸送の研究を発展させなければならない。
 本部門は上記の趣旨にのっとり、2012年4月に、国際海事研究センターの新しい部門として発足した。
前身は、2008‐2011年度に文部科学省特別教育研究推進(研究推進)に採択された「輸送の三原則を統合した国際海上輸送システム創出の研究」である。研究推進の概要は「これまで個別に研究対象とされていた、国際海上輸送の三原則である安心・安全、経済性と環境保全を統合し、海運国日本が世界を先導する国際海上輸送の研究を、自然科学と社会科学系分野との連携で今までにない海上輸送システムを創出する」としている。この趣旨に即し、「輸送の三原則を統合した国際海上輸送システム創出の研究」の焦点を絞り、この4年間に築き上げた研究業績を核として、世界的な海事科学研究の拠点形成を目指した研究を進めていく。
 具体的に、輸送の三原則「安心・安全、経済性」に環境保全を統合した輸送を、海上の船舶に強い影響を与える気象及び海洋現象の数値シミュレーションをベースに総合的な国際海上輸送の研究を発展させる。
【部門の構成員と役割分担の概略】
教授(兼)  塩谷茂明   総括
教授(兼)   内田 誠   機関からの安心・安全、経済的運航
准教授(専)  笹 健児   実海域航行船舶の船体運動からの安心・安全、ウエザールーチング総合
客員教授  高橋桂子(JAMSTEC)...気象・海象の高度数値計算、ペタコン
客員教授  加納敏幸(海上技術安全研究所)...物流シミュレーション、経済的運航
客員教授  庄司るり(東京海洋大学)...最適航法と経済的運航
客員准教授 寺田大介(水産工学研究所)...船体運動から輸送の安心・安全
客員准教授 浦上美佐子(大島商船高等専門学校).船陸、船船間通信システムによる船舶管理、運航支援
客員研究員 高山敦好(広島商船高等専門学校)...船舶排ガスの軽減、数値大気拡散

 研究推進の研究の発足時の2008年に、海洋研究開発機構の地球シミュレーションセンターと共同研究を行った題目は、「国際海上輸送システムのための気象・海象の大規模数値シミュレーション」である。本共同研究は、2007年8月に締結された「神戸大学、兵庫県立大学及び海洋研究開発機構の教育研究に関する包括協定書」の枠組みの中に位置づけられ、計算科学分野における教育・研究における協力を行う。人事交流に加え、機構は、計算機シミュレーションにおける教育及び研究指導における役割を果たし、相互に協力して共同研究を推進するなどの協定事項を積極的に推進する。共同研究推進の体制としては、神戸大学から複数名の研究者が、地球シミュレータセンター内の地球シミュレータを使用した研究に従事し、密接な情報交換、意見交換を行いながら共同研究を進めた。
 この共同研究の目的と趣旨を継承し、新たに2012年から4年間の共同研究の継続を締結した。本共同研究の目的及び背景は以下のとおりである。
 2006年12月に発表された海洋政策大綱には、「我が国の海洋・沿岸域の現状は、海上交通の安全の確保、海上災害の防止、海洋汚染の防止、海上輸送の安定化・活性化といった課題や問題が山積され、今後これら諸問題の解決を早急に行う必要がある」と示されている。海運国日本では、国際海上輸送の三原則「安心・安全、経済性」や環境保全は、常に研究技術開発において考慮されるべきテーマである。海上輸送の安心・安全の確保のため、航海中に遭遇するであろう波浪、海流及び風等の気象・海象を事前に総合予測し、海難及び災害の回避に役に立てるような予測シミュレーションを行うことは、社会的要請が非常に高い。多々あるテーマの中においても、上記の三原則を統合し、かつ環境保全を同時に満たすことが可能なシミュレーション科学技術として、本共同研究では、以下の3つのテーマに焦点をあてる。
1. 気象あるいは海象を高解像度でのシミュレーション予測を行い、最適な航路等の探索を含む、安心・安全、経済性、環境保全に資するシミュレーション技術の確立。
2. 海洋環境関係の保全のため、例えば、タンカーなどから油などの流出が起こったときの、拡散シミュレーション技術の確立、およびバラスト水を排出した際の、液液混合過程・拡散過程のシミュレーション、および波の影響を考慮した拡散過程のシミュレーションなど、海洋環境保全に資するためのシミュレーション技術の確立。
3. 船舶から排出される排ガスが、どのように拡散するかについての、大気環境保全のための局所的および地域的な大気拡散をさせた連成シミュレーション技術の確立。
1~3のシミュレーション技術の確立は、海運国日本が世界を先導するべき要素技術であり,かつ地球シミュレータや2011年に神戸に設置された次世代スーパーコンピュータの活用を通して、世界を先導することが可能な統合技術である。
 地球シミュレータセンターの複雑性シミュレーショングループでは、大気・海洋結合系のまさに非線形・非定常な複雑系における予測シミュレーションの精度を向上することを目的に、地球シミュレータの稼働当初から、地球シミュレータを最大限に活用でき、かつ、できる限り自然に忠実な新しい物理モデルを研究開発し、予測精度の向上に貢献する研究開発を推進している。一方神戸大学では、海事マネジメント、ロジスティクスの研究開発を中心に、積極的な人材育成を実施している。本共同研究では、2者が保持するそれぞれの研究、技術開発の知見を連携し、最先端かつ先駆的なシミュレーション技術の確立を目指す。

 当部門は、若手及び神戸大学内の研究員による研究班グループを構成した。メンバーは塩谷、内田、笹、寺田、浦上、高山である。研究班グループは実質の研究を行い、およそ2ケ月に1度、研究班グループ会議を開催する。しかし、今年度は地球シミュレータを使った気象・海象の数値計算の手法の引継ぎを主として実施したため、その会合の回数を増やし、本研究班グループの会合は2回のみ実施した。
2013年度 研究班グループ会議
第1回
日時:2013年5月7日14:30-16:30   場所:神戸大学大学院海事科学研究科3号館1階塩谷研究室
議題:1.輸送の三原則出版について
   2.日本船舶海洋工学会への投稿
   3.クリッパーイワギの計測データの利用活用
   4. 平成25年度研究計画の方針
   5.各自の年度研究計画作成依頼
   6.その他

第2回
日時:2014年1月21-22日  場所:神戸大学大学院海事科学研究科3号館1階塩谷研究室
議題:21日(火)1.平成25年度研究経過各自報告について
        2.平成25年度研究成果発表会について
        3.クリッパーイワギの計測データの利用活用
        4.深江丸遠隔操船支援の概略
        5.地球シミュレータの運用について
   22日(水)6.北極海航路に関する研究プロジェクト申請について
        7.平成26年度研究計画の方針について
        8.各自の年度研究計画概要について
        9.その他

 地球シミュレータによる気象・海象の数値シミュレーションの計算スキームは「MSSG-O」「MSSG-A」および「WW3」がある。MSSG-OはOcean(海洋)の数値計算のスキーム、MSSG-AはAtmosphere(大気)の数値計算のスキームおよびWW3はWave Watch 3による波浪の数値計算である。我々の研究では、全球にわたる気象、海洋および波浪の数値計算を実施するので、これらの3モデルを結合し、地球丸ごとの気象・海象の数値予報を実施する。これらの計算の完了後、大洋航海中の海上輸送に関するウエザールーチングを展開する。実際には、これらの計算の実行は本研究のメンバーおよび博士後期課程の学生が担当する体制つくりを行うために、数値計算法の勉強会をおよそ毎月開催した。
対象者は塩谷、笹、高山、である。会議内容は、地球シミュレータによる気象・海象の数値シミュレーションの計算を、今後ペタコンに移植するにあたり、計算ができる研究員の充実を図ることである。さらに、JAMSTECにて詳細な数値計算手法のご教授をお願いし、4回程度、2泊3日の出張を行って、計算手法の技術を習得した。途中から、塩谷研究室の博士後期課程の陳学生も参加した。これにより、今後気象・海象の数値計算の実施は笹、髙山、陳の3名で、協力しながら実施する事となった。
これらの作業部会による研究に対し、客員教授は研究に対するアドバイスなどを与えるコーディネータの役割を果たす。そのために、当部門の全体会議を年3回開催した。
2013年度 部門会議
第1回
日時:2013.6.3 14:00-16:00  場所:神戸大学大学院海事科学研究科総合学術交流棟5階会議室
議題:1.部門構成員の変更
   2.平成24年度の活動報告
   3.平成25年度の研究計画
   4.役割分担
   5.その他

第2回
日時:2013.12.19 12:30-13:20 場所:神戸大学大学院海事科学研究科総合学術交流棟5階会議室
議題:1.平成25年度の活動中間報告
   2.平成25年度の研究成果報告会について(特別招待講演者の選定)
   3.平成26年度の研究計画
   4.その他

第3回
日時:2014.3.10 13:00-17:30  場所:神戸大学大学院海事科学研究科総合学術交流棟1F梅木Yホール
議題:「輸送の三原則を統合した国際海上輸送システム創出の研究」研究成果報告会
プログラム:                   司会:塩谷茂明(輸送部門代表者)
開会挨拶                   塩谷茂明(輸送部門長)
特別講演1「リアルタイムセンシングによる運航支援」内田 格((株)商船三井)
特別講演2「船隊管理システムについて」間島 隆博(海上技術安全研究所)
成果報告1:輸送の安心・安全
(1)「AISの航路履歴に着目した航海支援システムの提案」浦上美佐子(大島商船高等専門学校准教授)
(2)「GISを用いた夜間航海時の航海情報の有効提示に関する研究」柳 馨竹(神戸大学大学院生)
(3)「Effects of Weather and Ocean on Ship Traffic in the Eastern Seto Inland Sea」陳辰(神戸大学大学院生)
(4)「高速低GM船の4自由度操縦運動シミュレーション」  寺田大介(水産工学研究所)
成果報告2:輸送の経済性・環境保全
(1)「連続モニタリングシステム計測に基づく船舶推進動力特性の分析」
長井駿介(神戸大学大学院生)
(2) 「船舶排ガスを対象とした大気拡散予測システムの構築」
高山敦好(広島商船高等専門学校講師)
(3) 「気象・海象実海域における荒天航海時の貨物船の運動性能について」
塩谷茂明(神戸大学教授)
閉会挨拶  塩谷茂明(輸送部門長)
懇親会(生協食堂) 約40名の参加者があり、活発な意見交換を行った。

2.国際活動
塩谷茂明
・OMAE2014にて講演、June 9-14, 2013, Nantes, France
・TRANS NAV 2013(10th INTERNATIONAL CONFERENCE ON MARINE NAVIGATION AND SAFETY OF SEA TRANSPORTATION) にて講演, Gdynia, Poland, June, 19-21, 2013
・ISOPE2013 (International Ocean (Offshore) and Polar Engineering Conference) にて講演、 Anchorage、USA、July、 2013,

笹健児
・OMAE2014にて講演、June 9-14, 2013, Nantes, Franc
・海外出張、ノルウエ-工科大学、2016年2月ー2017年3月 

3.論文等
〔修士論文〕
・陳 辰:Numerical Ship Navigation based on the Weather and Ocean Simulation
・槇谷 康平:仔魚飼育水槽内の流場の計測及び数値計算に関する研究

〔博士論文〕
・角田 哲也:仔魚飼育用円形水槽内流れの定性的および定量的推察

〔査読付き論文〕
(1) Shinchiku RYU, Shigeaki SHIOTANI: Small Craft Assistant Information System Based On GPS and Google Earth in Real Time, 32nd International Conference on Ocean, Offshore and Arctic Engineering, OMAE 2013, CD-ROM, pp.1-7, June 9-14, 2013, Nantes, France
(2) Kenji Sasa,Daisuke Terada, Shigeaki Shiotani, Nobukazu Wakabayashi, Teruo Ohsawa : CURRENT SITUATION AND DIFFICULTY OF WAVE FORECAST FROM
VIEWPOINT OF SHIP MANAGEMENT, 32nd International Conference on Ocean, Offshore and Arctic Engineering, OMAE 2013, CD-ROM, pp.1-7, June 9-14, 2013, Nantes, France
(3) S. SHIOTANI, S. RYU and X. GAO: Study of the Usage of Car Navigation System and Navigational Information to Assist Coastal Navigational Safety, TRANS NAV 2013, 10th INTERNATIONAL CONFERENCE ON MARINE NAVIGATION AND SAFETY OF SEA TRANSPORTATION, Gdynia, Poland, June, 19-21, 2013
(4) Shigeaki Shiotani, Kenji Sasa, Nobukazu Wakabayashi, Daisuke Terada: Measurement of Sea-Shocks Response of a Sailing Ship in Japan, ISOPE2013 (International Ocean (Offshore) and Polar Engineering Conference), pp.1-7, CD-ROM, July, 2013,
(5) Tetsuya SUMIDA, Hideo KAWAHARA, Shigeaki SHIOTANI, Yoshitaka SAKAKURA and Atsushi HAGIWARA: Estimation of Flow Fields in a Model of Rearing Tank for Marine Fish Larvae by Numerical Calculation, ISOPE2013 (International Ocean (Offshore) and Polar Engineering Conference), pp.1-6, CD-ROM, July, 2013,
(6) 高欣佳、塩谷茂明:AISを用いた大阪湾の船舶航行実態解析に関する研究、海洋開発論文集、Vo.69、No.2、pp. I_616-I_621、2013
(7) 塩谷茂明、瀧林佑哉、高欣佳、若林伸和:AISを用いた航行船舶の入出港時の航路遵守に関する調査、海洋開発論文集、Vo.69、No.2、pp.I_622-I_627、2013
(8) 柳馨竹、中尾謙太、堀川大介、塩谷茂明、笹健児:GISを用いた船舶出入港時の航海シミュレーションの研究、海洋開発論文集、Vo.69、No.2、pp.I_610-I_615、2013
(9) 笹健児、寺田大介、塩谷茂明、若林伸和、大澤輝夫:データ分析から見た船舶運航における波浪予報の現状と課題について、海洋開発論文集、Vo.69、No.2、pp.I_61-I_66、2013
(10) 塩谷 茂明、笹 健児:航行船舶が捉えた東日本震災時の海震の計測、沿岸域学会誌、Vol.26、No.3、pp.117-127、2013
(11) 塩谷 茂明、柳 馨竹、陳 辰:AISデータによる早期津波伝搬予測の可能性に関する研究、沿岸域学会誌、Vol.26、No.3、pp.129-139、2013
(12) 笹 健児、寺田 大介、塩谷 茂明、若林 伸和、池淵 卓郎:実海域における荒天航海時の貨物船の運動性能について -オンボードデータによる運動および波浪特性の分析・推定-、日本船舶海洋工学会論文集、第18号、pp.167-175、2013年12 月
(13) Tetsuya Sumidaa,∗, Hideo Kawaharab, Shigeaki Shiotanic, Yoshitaka Sakakurad,Atsushi Hagiwara: Observations of flow patterns in a model of a marine fish larvaerearing tank, Aquaculture Engineering, 57, pp.24-31, 2013

〔著書〕
神戸大学海上輸送の三原則編集委員会編(塩谷他):海上輸送の三原則、海文堂、P.276、2013年7月


shop info店舗情報

神戸大学海事科学部
国際海事研究センター

〒658-0025
神戸市東灘区深江南町5丁目1-1
TEL&FAX 078-431-6318